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メンタルヘルス・マネジメント検定の備忘メモ(現在一部改修中)

発達障害(働く場において)

発達障害について。

 

特に近年、発達障害という言葉が一般にも認知されてきたかと思います。2005年に発達障害者支援法が施行されたこともあり、職域においても発達障害を持つ方と働く機会が増えています。

働く場において、発達障害を持つ方と一緒に、お互いが不安や不満なく働けるためには具体的にどうしたら良いのでしょうか。結論から言うと、特別な対応というよりは、実はユニバーサルな仕事の仕方をすることであるように思います。(もちろん、その人に合わせた対応も必要なケースも多くあると思いますが、基本的な考え方として。)

 

 

発達障害とは 

生まれつきの脳の働き方の特性により、幼い頃(幼児の頃くらい)から行動面や情緒面に特徴的なところがあるものです。これは将来継続するもので、本質的な障害特性や個人の特徴は教育や治療もしくは何らかの方法で治癒したり、年齢とともになくなっていくというものではありません。ただ、環境と本人の特性がフィットした場合、その中で十分に実力を発揮することができます。また、自身の特徴から、環境の中で実力をうまく発揮できる方法を学習していくことができる場合もあります。 *1

 

特に職域において( 2 つのタイプ)

様々ある発達障害の種類の中で、主に2つを見ていきます。

一つ目が注意、多動性・衝動性に特徴のある「注意欠陥・多動症ADHD)」、もう一つが社会性やコミュニケーション、こだわりに特徴のある「自閉症スペクトラム症(ASD)」です。

 

注意欠陥・多動症ADHD

ADHDの特徴

発達年齢に比べ、落ち着きがない(多動性)、待てない(衝動性)、注意が持続しにくい、作業ミスが多い(不注意)といった特徴があります。

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注意欠陥・多動症の特徴イメージ(独立行政法人 障害者職業支援センター 支援マニュアルNo.07より筆者作成)

これら特徴の現れ方には個人差があり、どれか一つが顕著だったり、どれも出ていたりしますが、成長に伴い「多動性」は落ち着き「衝動性」「不注意」が残るケースが多いようです。*2

 

働く場において

これらの特徴を理解し、適切な支援をすることで、 障害特性を逆に強みに生かすことができます。例えば「瞬発力、行動力がある」や「こなせる仕事量が多い」などです。

 具体的には、作業スペースなどの環境を整えて業務に集中しやすくする(環境面)、一度に取りかかる業務は少なく設定し、あらかじめ休憩時間のタイミングを設定しておく、ToDoリストを利用したり、業務の指示は簡潔にわかりやすく伝える(行動面)、などを心がけることが大切です。*3

 

自閉スペクトラム症ASD

ASDの特徴

「社会性」、「コミュニケーション」、「想像力」 に特性がある、「三つ組の特性」によって診断されます。これら3つの特性の出方によって自閉症アスペルガー症候群、その他広汎性発達障害などと診断名が変わってきますが、どれも「三つ組の特性」で特徴づけられます。これらをまとめて「自閉スペクトラム症」と呼ばれています。 

 3つある特性の各々の出方や種類は人によってバリエーションに富み、画一的に表現することは難しいのですが、原則的にはこの3つが重なり合って形成されているイメージです。

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三つ組の特性イメージ(独立行政法人 障害者職業支援センター 支援マニュアルNo.07より筆者作成)

これら三つ組の特性が一見してわかりやすく現れているのを自閉症、一見してわかりにくいものをアスペルガー症候群と呼んでいるようです。ただ、これらは一見してわかりやすいかどうかのレベルの問題で、グラデーションを作りながら連続したものであり、本質的には同じ三つ組の特性を持つものであるということがポイントです。

 

働く場において

① 三つ組の特性を共通して持っていること、ただ ② それらの特性(内容)は人によりかなりバリエーションがあること、がポイントです。

① 三つ組の特性を共通して持っていることから、そのサポート方法は原則的に共通したものがあります。例えば、業務の指示をするときは「どのようなことをやり、どのようになったら終わりなのか」と、見通しを明確に伝えるようにすると、新しいことが不安で嫌がることを避けられます(想像力の特性)。また、明確で簡潔な言葉で伝えるようにすると、言われたことがよく理解でき不安がなくなり取り組むことができるようになる(コミュニケーションの特性)、などです。*4

また、② 人によりバリエーションに富むため、 本人の特性に合わせて柔軟に対応を変えていくことが大切です。その人の持つ特性にフィットした環境や手法を支援することで、特性を強みとして発揮できる場合があります。

 

職場でのTIPS

特性を理解する

まず大前提として、特性を理解することが大切です。

前述の各障害特性を理解することももちろんですが、発達障害の基本的な性質を理解することで、なぜそういった言動をするのかわかりやすく、またそれに適切に対処できるようになります。

発達障害は、脳や中枢神経系に生じた何らかの機能的な偏りであるとされています。そのため、能力のアンバランスさ、認知機能の偏りがあり、またそれに起因した「独特の」言動が生じます。

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能力のアンバランスさイメージ(独立行政法人 障害者職業支援センター 支援マニュアルNo.07より)

外見からは分かりづらいため、えてして「やる気がない」「変わっている」と思われがちです。しかし、これらは内面(中枢神経系の機能特性)の現れであって、決して「性格の問題」「努力不足、怠慢」「しつけや生育環境、経験不足」によるものではありません。*5

 

場面ごとのケーススタディ

本記事で主に参考にしている、独立行政法人 障害者職業支援センターの「支援マニュアルNo.07」付属リーフレット「発達障害について理解する 〜事業主の方へ〜」に記載されているチェックリストを一部再編し、ケースごとの対応をまとめました。

 

1.仕事の指示

  • 仕事内容、理由、手段、役割を明確にして伝える
  • マニュアルや指示書で示す説明を聞くだけだと混乱する、聞きながら同時にメモを取るのが苦手な人も。目でわかりやすく、メモを取らなくてよくする。
  • ゆっくりと説明するわかりやすくする。
  • 具体的に伝える言われていないことの推測が苦手な人も。指示を明確にすることでわかりやすくする。
  • つまづいた点は必ず質問するよう促す:些細なことに気を取られ、仕事や指示に集中できない人も。※「何かあったら質問して」は「何かって何?」となりわかりづらい。
  • 良い評価、注意点などはすぐ具体的にフィードバックする
  • コミュニケーションを大切にする:思わないところでつまづいている時があります。
  • ルールや決まりごとの変更があったときは前もって伝える:ルールや決まり事を大切にする特性がある人も。

 

2.ミーティング

  • 話すタイミングが悪いときは伝える: 場の雰囲気や他者の都合を汲み取るのが苦手な人も。
  • 場面に応じた人との関わり方、話し方や言葉を教える:適切な言葉遣いや話題を知らない人も。
  • 話が長くなったり脱線した場合は止める:話題に夢中になったり、他に注意がそれて会話が疎かになったりすることも。

 

3.仕事のホウレンソウ

  • 報告タイミングを事前に決めておく:迷惑をかけてしまうのでは、と気になったり話しかけるタイミングをうまくつかめない人も。
  • 報告、相談内容をメモやメールにするなど決めておく:どう表現して良いかわからない人も。
  • 時折、周りから様子を伺うようにする:自分から話しかけるのが苦手、タイミングがうまくつかめない人も。

 

4.仕事の進め方

  • 優先順位を明確に伝える:優先順位をつけるのが苦手な人も。
  • 写真や図、動画など本人がわかりやすい方法でマニュアルを作成する:文字だけだとわかりづらい、マニュアルを活用するのが苦手な人も。
  • (苦手な場合は)手先を使う仕事を避ける:手先があまり器用でない人も。
  • 手伝う仕事、指示する人の範囲を明確に決めておく:言われたこと以外は自分の仕事ではないと自発的に取り組めいない人も。
  • 変更などは極力事前に伝えておく:仕事の中止、変更、延期などに混乱する人も。

 

5.仕事の終わり方

  • 1日の仕事の終わりの目安を示しておく:仕事の切れ目に関係なく(残業はダメだからなどと考え)帰る人も。逆に、仕事が終わらないからとずっと続ける人も。
  • 就業時間には上司(代行者)への報告の時間を設ける:話しかけるタイミングをつかめない人も。

 

6.働く環境

  • 静かな場所、ヘッドフォン、耳栓などを用意する:周りの人の話し声や大きな音などが騒音となったり、気になって集中できない人も。
  • マスクの着用、休憩の活用、場合により仕事場の変更:匂いが気になって集中できない人も。
  • サングラスの着用、休憩の活用、場合により仕事場の変更:光が気になって集中できない人も。

 

7.人との関わり

  • 一緒に働く人の写真付きの名簿などを用意する:名前を覚えるのが苦手な人も。
  • 咄嗟に人を見分けることが難しいことを周囲が理解する:人の顔を見分けることが苦手な人も。
  • 無理に雑談に加わらなくても良いことを伝えておく:何を話して良いかわからない、雑談が苦手な人も。
  • 他の人と休憩時間をずらす:他の人がいるとうまくリフレッシュできない人も。

 

最後に

上記のTIPSはどれも(特に「仕事の指示」の項目などは)障害云々にかかわらず、人と仕事を進めていく上でとても大切なことだと思います。 これらは他人と協力して物事を進めていく上で、よりスムーズに、よりスピーディにするためのTIPSでもあり、これらを職場で整えることは、そこで働く誰にもとってもメリットがあるものと思います。

 そして、こころの耳の「自閉症スペクトラム障害」の項では、「職場で起こった問題を安易に個人の発達障害が原因であると考えず、まず職場がもつ問題をふりかえり、職場で可能な対応を考える。」とも述べられています。*6 他の疾患や障害と同様に、職場不適応(状態)や問題を個人のみに帰せず、職場としても何か対応できることがなないかを見ていく姿勢もとても大切だと思います。