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メンタルヘルス・マネジメント検定の備忘メモ(現在一部改修中)

職場復帰支援の手引き

厚労省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(以下「職場復帰支援の手引き」)について。

 

「職場復帰支援の手引き」の概要

「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」*1

(以下「職場復帰支援の手引き」)について、ざっと。

 

「職場復帰支援の手引き」は厚労省より2004年に公表され、その後2009年、2012年と改訂を重ねています。(中央労働災害防止協会に委託され設置された委員会により改定されています)

その中では、心の健康問題で休業した労働者の円滑な職場復帰と業務の継続には、あらかじめ休業から通常業務への復帰までの流れをあらかじめ明確に定めておく必要があるとしています。

事業者は本手引きを参考にしながら衛生委員会等において調査審議し、産業医等の助言を受け、個々の事業場の実態に即した形で、事業場職場復帰支援プログラム(以下「職場復帰支援プログラム」という。)を以下の要領で策定し、それが組織的かつ計画的に行われるよう積極的に取り組むことが必要である。

「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」

事業主は、メンタルヘルスの問題を抱え休職・復帰する労働者の職場復帰支援プログラムを以下の方法で作成、実施に積極的に取り組む必要があるとされています。

  • 衛生委員会等において調査審議する
  • 産業医等の助言を受ける
  • 事業場の実態に即した形にする

・・・と、中小規模の企業には少々ハードルが高いですが、本手引きは職場復帰支援プログラムを策定するためにガイドとなるものです。

 

5つのステップ

職場復帰支援プログラムには5つのステップがあります。

休業の開始から職場復帰をした後のフォローアップまで、職場復帰を果たして終わりではなく、再び労働者が職場で業務を継続して取り組めることまでが対象となっています

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厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」より

 

第1ステップ:休業開始〜休業中のケア

■ 労働者からの診断書(病気休業診断書)の提出

主治医による診断書の提出により、休業の判断がなされます。

診断書には以下の事項が明記されていることが望ましいです。

  • 病気休業を必要とする旨
  • 必要な療養期間(見込み) 

 

管理監督者によるケア及び事業内産業保健スタッフ等によるケア

以下を労働者とコミュニケーションします。

  • 療養に専念できるために安心してもらう
  • 休業中の事務手続き
  • 職場復帰支援についての説明
  • 必要な連絡事項
  • 復帰に向けてあらかじめ決めておくことなど

必要に応じて、主治医と連絡を取ることもあります。(要労働者本人の合意)

 

■ 病気休業期間中の労働者の安心感の醸成のための対応

休業期間中でも、コミュニケーションを取ることが、孤立感、復職や将来のキャリアへの不安の払拭に効果的な場合もあります。

事業場内外に設定した相談窓口についての情報提供も大切です。特に、経済的不安への公的制度や社内制度などの情報提供などは有用です。ただ、本人との接触は、原則的には主治医と連絡を取った上で、もしくは主治医を通して行います。(個人情報取得のための本人確認などを含む、必要な連絡事項などを除く)

 

■ その他

以下はあらかじめ労使で十分に協議した上で、就業規則などで定めて(周知して)おくことが望ましいです。

  • 私傷病による休業の最長(保障)期間、クーリング期間(休業の最長(保障)期間を定めている場合で、一旦職場復帰してから再び同一理由で休業するときに、休業期間に前回の休業期間を算入しないために必要な、職場復帰から新たな休業までの期間)等を定める場合
  • 休業期間の最長(保障)期間満了後に雇用契約の解除を行う場合 

 

第2ステップ:職場復帰の判断(主治医) 

■ 労働者からの職場復帰の意思表示と職場復帰可能の判断が記された診断書の提出

 労働者からの職場復帰の意思表示、さらに主治医による職場復帰可能の判断が記された診断書(復職診断書)の提出を持って、職場復帰のスタートとなります。

 

産業医等による精査

 主治医の職場復帰のGoが出たとしても、それはすなわち「その職場で業務を行うことができるという判断」ではありません。その職場で実務上必要な・求められる能力などとマッチしているかを確認する必要があります。これには産業医等が精査し、取るべき必要な措置などを意見することが大切です。

 

■ 主治医への情報提供

 あらかじめ主治医に業務に必要な能力や社内の勤務制度などを伝えておき、職場復帰可能となるレベルにまで回復したと判断した時に復職に関する意見書を記入してもらうなど依頼することが望ましいです。

 

第3ステップ:職場復帰の判断(事業主)

■ 情報の収集と評価

労働者の復職可否の判断・対応のため、労働者の状態と職場についての情報を収集し、評価を行います。

労働者の状態とは、治療状況、病状の回復状況、業務を行えるだけの生活・処理能力などがあるか、今後、どこ(部署など)でどのように働きたいかなどといった仕事への考え方などです。職場の評価とは、復帰した労働者と職場はフィットできそうか、作業管理はどのように行っているか、同僚の支援・受け入れ状況、社内制度、などです。

また、診断書だけではわからない職場復帰に必要な情報などがある場合は主治医に確認します。(要本人同意)

 

■ 職場復帰の可否についての判断

上記情報や評価をもとに、職場復帰の可否について判断します。(職場復帰可能か否かの判断。最終決定ではありません。)これは事業内産業保健スタッフが中心となって判断します。その際、主治医の意見や産業医の意見、管理監督者等の意見を十分に考慮することが重要です。

産業医が選任されない50人未満の事業場の場合は、事業場外資源(地域産業保健センターや労災病院勤労者メンタルヘルスセンターなど)を利用し、人事労務担当者、管理監督者、衛生推進者もしくは安全衛生推進者が携わります。

 

■ 職場復帰支援プランの作成 

 職場復帰可能と判断されたら、職場復帰支援プランを作成します。

いくつかのステップに分け、各ステップで求められる能力(定時勤務が可能、職場内での仕事に関する意思疎通が可能、顧客との折衝が可能など)を明記します。

などを定めます。

 

第4ステップ:職場復帰決定

■ 労働者の状態の最終確認

職場復帰できそうか?の最終確認。

疾患の再燃・再発の有無、回復過程での症状の動揺の様子などを確認します。 

 

■ 就業上の配慮等に関する意見書の作成

産業医が作成します。

就業にあたり、最終的な措置を「職場復帰に関する意見書」(様式例3)などにしてまとめます。

 

■ 事業者による最終的な職場復帰の決定

事業者が職場復帰を決定します。

管理監督者、人事労務管理スタッフが産業医の「職場復帰に関する意見書」を確認の上、最終的な判断を事業者がします。

また、職場復帰と事業場での対応については、主治医にも情報提供します。(「職場復帰及び就業上の配慮に関する情報提供書」(様式例4)などを利用) 

 

(職場復帰) 

職場復帰します。

 

第5ステップ:復帰後フォローアップ

■ 疾患の再燃・再発、新しい問題の発生等の有無の確認

事業内産業保険スタッフや管理監督者は日頃から連携を取り、疾患の再燃、再発については早期発見、早期対応ができるようにすることが大切です。

 

■ 勤務状況及び業務遂行能力の評価

実際に職場復帰が進んでいるかを確認します。

労働者本人や管理監督者の意見をまとめ、客観的に評価します。もしここで何らかの問題などが発生している場合、事業内産業保険スタッフ等が面接を行い、主治医と連携しながら対応を検討します。 

 

■ 職場復帰支援プランの実施状況の確認

プランが実際に計画通り運用されているかの確認です。

されていない場合は関係者間で調整します。 

 

■ 治療状況の確認

通院や治療状況についても確認し、可能ならば就業上の配慮が必要なくなるまで、主治医に就業上の配慮に関する(見直し含め)意見書をもらうようにします。

 

■ 職場復帰支援プランの評価と見直し

プランは適切に機能しているか、実際との乖離はないかなどを確認します。問題が生じている場合はプランの再調整をします。

 

■ 職場環境の改善等

改めて職場環境の確認、改善をします。

作業環境、作業方法、労働時間の管理や人事労務面の管理などを見直します。

見直しにあたり、現状評価のために「職業性ストレス簡易調査票」、「快適職場調査(ソフト面)」、「メンタルヘルスアクションチェックリスト」等の活用も有効です。

 

管理監督者、同僚等への配慮等

 職場復帰する労働者と同じ現場の管理監督者や同僚などに過度に負担がいっていないかの確認も大切です。メンタルヘルスに関わるセルフケア、ラインケアについての研修や情報提供などにより、これらに関わる知識や意識の向上を目指すことも大切です。

  

その他

■ 職場復帰の判断ポイント

職場復帰の判断は労働者本人はもちろん、主治医や産業医はできません(意見します)。どのように判断すれば良いのか難しいですが、本手引きでは、職場復帰判断基準の例として以下の例が挙げられています。

  • 労働者が職場復帰に対して十分な意欲を示している
  • 通勤時間帯に一人で安全に通勤ができる
  • 会社が設定している勤務日に勤務時間の就労が継続して可能である
  • 業務に必要な作業(読書、コンピュータ作業、軽度の運動等)をこなすことができる
  • 作業等による疲労が翌日までに十分回復している
  • 適切な睡眠覚醒リズムが整っている
  • 昼間の眠気がない
  • 業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している  など

 

■ 復帰先はまずは元へ

職場復帰は「まずは元の職場への復帰」を原則とします。

まずは元の慣れた職場である程度のペースがつかめるまで業務負担を軽減しながら経過を観察し、その上で(必要と判断された場合は)配置転換や異動を考慮した方がよいと考えられています。新しい職場には慣れるまで時間や心理的エネルギーを使いますので、適応にかかる負担が疾患の再燃・再発を誘発する可能性も否定できないためです。(たとえそこが望ましい環境と思われても)

もちろん例外はありますので、実際の状況を客観的総合的にみて判断します。(異動が原因で発症した場合、運転や一定の危険を伴う場所での作業を行う場合など)

 

■ 就業状の配慮

配慮の例として以下のようなものが考えられます。

  • 短時間勤務
  • 軽作業や定型業務への従事
  • 残業・深夜業務の禁止
  • 出張制限(顧客との交渉、トラブル処理などの出張、宿泊をともなう出張などの制限)
  • 交替勤務制限
  • 業務制限(危険作業、運転業務、高所作業、窓口 業務、苦情処理業務等の禁止又は免除)
  • フレックスタイム制度の制限又は適用(ケースにより使い分ける。)
  • 転勤についての配慮

などなど。 

 

最後に

メンタルヘルスの問題により過去1年間で1ヶ月以上休業・退職した労働者は0.4%いて、事業場の規模が大きくなればなるほどその割合は高くなっていきます。*2

また、事業場ごとにみると、100人規模の場合、3分の1以上の事業場で休業者が出ている割合になります。30〜40人規模でも10%、50〜90人規模では20%弱の事業場で出ている割合になります。

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メンタルヘルス上の理由により連続1ヶ月以上休業・退職した労働者の有無(「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」パンフレットより)

これは結構高い数字で、どこでも起こり得るという認識だと実態に近いのかな、と思います。