家事・育児のためには仕事を9.5時間未満にする必要
働く時間と、家事・子育に関する調査レポートについて。
「9.5時間」レポート
父親が家事・育児をする時間を確保するには、仕事関連時間を9.5時間以内にすることが必要
国立成育医療研究センター 2021年1月13日 プレスリリース
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター(以下成育医療研究センター)が、2021年1月付のプレスリリースにて発表しました。*1
成育医療研究センターが2016年実施・全国規模での調査データの分析を行い、発表したものです。
全国から無作為に抽出された対象者176,285人のデータのうち、①末子が未就学児、②夫婦と子どもの世帯、③就業している、といった条件を満たした父親について「仕事のある日」のデータ3,755人分を対象に分析。
結果、冒頭の「9.5時間」が導き出されたとのこと。
ちなみに、この調査では政府が「仕事と生活の調和推進のための行動指針」の2020年数値目標として掲げる、「6歳未満の子どもをもつ夫の育児・家事関連時間を150 分(2.5 時間)に」を念頭に置いています。
1日のモデルスケジュール
本調査での「9.5時間」のモデルとなる 1日 24時間のスケジュール(時間配分)はこんな感じ。
24時間の内訳は、以下の4つに分類されています。
- 仕事関連時間:仕事、通勤/通学、学業に費やされる時間
- 一次活動 :睡眠、食事、入浴、身の回りのことに費やす時間
- 休憩・その他:通勤/通学を除く移動、テレビ/ラジオ/新聞/雑誌、休養/くつろぎ、学習/趣味/娯楽、スポーツな ど、その他の時間
- 家事・育児関連時間:家事、育児、介護、買い物に費やされる時間
実際はというと
今回の調査の対象となった「父親」の働く1日は、実際にどうだったのでしょうか。
仕事関連時間の長さごとに24時間の時間配分で表したのが以下。
この調査では、全体の69%が仕事関連時間が10時間以上、多くの父親が9.5時間ラインを超えているのが現状のようです。
また、上記のグラフでもわかるのですが、仕事関連時間がどんなに増えても、一次活動の時間の変動は大きくありません。1次活動は生活する上で基本的な活動で、これはなかなか減らすことはできないためです。
※ただ、長時間労働により1次活動の多くを占める睡眠時間を削ることになるケースもあります。これがまた別の問題にもつながっていることは以前から指摘されていました。
「仕事関連時間」が増えることにより真っ先に減らされる時間は、「休憩・その他」もしくは「家事・育児関連時間」となりそうです。
大雑把に言って、「休憩・その他」は自分のために使う時間、「家事・育児関連時間」は家族のために使う時間といえるかもしれません。とくに同居する人がいる場合、さらに助けが必要な場合、「家事・育児関連時間」にもある一定程度以上は時間を費やすことが求められるでしょう。
なお、上記のグラフにて、仕事関連時間が9時間未満であっても、家事・育児関連時間は150分(2時間30分、赤い点線の枠)を満たしていません。「150分(2時間30分)の家事・育児」を満たしているのは仕事関連時間が「7時間未満」の群のみ。
それなのに、150分の家事・育児のためには「9.5時間」が出た理由は、「休息・その他の時間」を2時間にすることをモデルとしているからです。
本調査で12時間以上の「仕事関連時間」を持つ群以外は、「休息・その他の時間」に 2時間以上を費やしており、まずは「休息・その他の時間」をより短縮することとしました。その基準として、先行研究で、小学生以下の 子どもを持つ女性の自由時間が2時間 15分であったこと、6ヶ月健診にきた母親の平日の「休息・その他の時間」の平均が 113.5分であったことから、最低限必要な休息時間を2時間と設定しました。
国立成育医療研究センター 2021年1月13日 プレスリリース
まずはテレビや趣味の時間を削ることで家事や育児にあてることが前提、ということでしょう。
母親の場合
今回は子供のいる父親という視点ですが、子供のいる母親(同居のパートナー)でも、全く同じことが言えるかと思います。
子供を持つ女性正社員は実際どうなのかというと。
別の調査ですが、同年2016年に実施された調査結果によると、女性・正社員の労働時間は、約70%が1日あたり6〜10時間になっています。(以下グラフ・真ん中)*2
女性は正社員といえどもその多くが10時間未満の労働時間であり、その分、おそらくは「家事・育児関連時間」を確保していることが推測できます。(週あたりの時間を週5日勤務とみなして1日あたりの数値に換算しています)
ちなみに、この調査レポートにも、家事や育児にかける時間の割合などが属性ごとにあらわされ参考になります。
9.5時間未満にすれば良いのかというと
では男性(父親)も同様に、9.5時間未満に仕事関連時間をおさえれば家事・育児関連時間に時間をかけられるのかというと、それも一筋縄ではいかないようです。
パーソル総合研究所と立教大学の中原淳教授によおる共同研究プロジェクト「希望の残業学」によると、残業時間0の夫と、同じく残業時間0の妻のあいだには、子供との交流時間は2倍の開きがあり、さらに残業時間0時間の夫よりも残業時間60時間以上の妻の方が子供との交流時間が1.4倍長いという調査結果が出ているとのこと。
「仕事」と「家庭」のトレード・オフではなく、単純に「男性は仕事の量にかかわらずあまり育児をしない。一方で女性は仕事が増えてもしっかり育児をする」という、女性へ過剰な負荷がかかった状況なのです。
つまり、仕事関連時間を9.5時間未満にすることは家事や育児、介護などに費やす時間の「物理的な余地を生み出す」ことにはなりますが、実際にそこに費やされるかどうかは別の話となりそうです。
先述の通り、仕事関連時間を短くして(もしくはすでに9.5時間未満である場合でも)、さらにテレビやネット、趣味の時間などを短くするなどの努力?が必要ということです。努力しようというだけで解決するものかはわかりませんが。
おそらく、政府目標「150 分(2.5 時間)の「家事・育児関連時間」を中・長期的に確保し続ける」を達成するためにはまだ何かしらの変化が必要ということでしょう。
ただ、今回の調査により、父親の「家事・育児関連」への参加には「9.5時間未満の仕事関連時間」という具体的な数値を提示できており、イメージしやすくなりそうです。