人事考課(職場環境の改善)
人事考課制度に関して、ポイントをいくつか。
フィードバック
考課者から被考課者への評価結果のフィードバックの有無と、人事考課に対する被考課者の納得感とは大いに関連性があるといわれています。
いくらその組織にフィットした完成度の高い評価制度を組み立てていたとしても、考課者(多くは上司)からのフィードバックがない場合、被考課者の納得感は下がってしまいます。
フィードバックは評価の内容や理由を伝えるだけではなく、それらを踏まえて今後どういった対応をして方向に進むのか、どういったサポートや指導が必要なのかなどを話し合うことで、スキルや能力の開発やキャリア開発にもつなげることができます。
成果主義でのポイント
成果主義での評価の公平性を確保するためには、以下3つの要素が大切とされています。
- 情報公開
- 評価の正確性
- 評価の一貫性
ただ、これは個人的な所見ですが、「評価の正確性」を実現することは実務上難しい場合が多いかと思います。そもそも評価(価値)というものが相対的である以上、何が正確で何が不正確なのかはおそらく誰も知りません。というか、「正しい評価」というものは存在しないと思っています。これを「正しく」言い換えるなら、「納得感のある評価」でしょうか。
評価に満足できないと
財団法人社会経済生産性本部(現:公益財団法人日本生産性本部)の調査によると、「自分の評価について納得できないことがよくある」と回答した人の精神状態は、そうではないと回答した人に比べ、目立って悪くなっているとのことです。精神状態は、具体的には抑うつ、脅迫、不安、気分不安定などが見られるようです。
人事考課への納得感はメンタルヘルスにも影響するということがわかります。
産業人メンタルヘルス白書(2003年版、財団法人社会経済生産性本部、現:公益財団法人日本生産性本部)*1によると、給与制度と働く人のメンタルヘルスの関係についての調査では、以下のような結果になっています。
Q. (自社の※筆者追記)給与制度は合理的にできている
YES 45.4% / NO 53.5%
Q. 自分の評価について納得できないことがよくある
YES 27.9% / NO 71.0%
※ NOと回答した人では、特に精神面で 「偏倚」「抑うつ」「強迫」「不安」「気分不安定」が悪い。
Q. 仕事の配分は能力・性格に応じて公平に行われている
YES 40.6% / NO 58.3%
産業人メンタルヘルス白書(2003年版)財団法人社会経済生産性本部(現:公益財団法人日本生産性本部)より
※2002年度調査、n=106,408
さらに白書では、以下の分析をしています。(一部抜粋、下線部は筆者)
「評価」とメンタルヘルスの関係
- 会社の給与制度が合理的かどうかよりも、自分の評価に納得できているかどうかが精神状態に大きく影響している。
- 会社の給与制度の合理感よりも、仕事配分の公平感の方が精神面への影響が大きい。
- 仕事の配分が公平と感じ、評価に納得している人のメンタルヘルスは良好である。 悪化傾向が強まるのは、仕事配分が公平だと思いつつも評価に納得できていない人であり、(中略)精神的なダメージが大きい。
仕事配分の公平感、(自身の)評価の納得感が、メンタルヘルスに大きく影響していることを示しています。
人事評価制度は作るだけでは不十分
人事考課制度があるか否かよりも、その制度が実際にどのように職場で運用されているかが、従業員の公平性の認知には重要な意味を持つといわれています。
評価の正確性や運用の透明性などを確保するためには、制度のシンプルさ、わかりやすさが重要です。
人事評価や人事制度は「より精度の高い」「幅広い面を評価する」(そして、もしかしたら「自社らしい」「社長の意向を汲んだ」?)ものを狙って複雑でわかりづらいものになりがちです。また、コロコロ変わったりすることもあります。こういった場合、従業員はもちろんのこと運営側もミスや誤解などが起こりやすくなり、また評価・集計のための作業が多くなってしまう傾向があります。(もちろん、制度が精巧であることや現状に合わせて頻繁にアップデートされることそのものは悪いことではないと思います。それで「分かるか」「回るか」といったことも重要であるということです)
また、評価項目や評価基準の公開はもちろんのこと、評価の一貫性(えこひいきなし)も大切です。