アルコール依存症
アルコール依存症について。職場での対応なども。
アルコール依存症は意思が弱い人がなる?
アルコールは、麻薬、覚醒剤、タバコ、睡眠薬などと同様に依存性の高い薬物の一つで、大量、頻繁に摂取することで依存症となることがあります。WHOの定義ではアルコール依存症は精神疾患の一つとされ、単なる個人の「意思が強い・弱い」といった問題ではありません。
依存形成のステップ
アルコール依存症は、3つのステップを経て徐々に作り上げられていきます。*1
耐性
アルコール摂取を続けていると、まずアルコールへの耐性ができます。
体内でアルコールを分解する過程で使われる酵素が増え、以前と同量では酔えなくなります。(前よりも一度に多くのアルコールを分解することができるようになる)これが耐性ができた状態です。いわゆる「お酒に強くなった」状態で、以前と同じような飲酒の効果を求めるために飲酒量が増えていきます。
なお、アルコール耐性は遺伝的要素もありますが、ある程度は摂取頻度や量により増減します。(これは、アルコール分解に関わる酵素が遺伝で左右されるものと、環境、つまりアルコール摂取頻度・量により増減するものがあるためです)
精神依存
次に、酒がないと物足りない、ずっと飲んでいたい、といった欲求が出てきます。
「お酒が欲しくなる」という精神依存が形成されます。精神依存が強くなると、お酒が切れると家の中を探し回ったり、わざわざ買いに行く行動に出るようになります。
身体依存
耐性、精神依存が形成され、長期間同様の飲酒習慣を続けていると、身体依存が形成されます。
身体依存とは、酒が切れたり飲酒量が減ると身体に離脱症状(禁断症状)が出ることで、不眠、不安、発汗、手のふるえ、血圧の上昇、いらいら感などが出ます。これらの離脱症状は飲酒を始めると治るため、より飲酒を続けてしまうことにつながります。
こうして、最終的には自身の力では飲酒をコントロールすることができない状態にまでなってしまいます。
きっかけ
前項「依存形成のステップ」のところでわかるように、アルコール依存症に陥るまではある一定の時間がかかります。アルコール摂取を続けることで、体内では、徐々に徐々に神経的構造が変わっていき、身体的・精神的依存が形成されていくのです。
その最初のきっかけ、アルコールに「はまって」しまうきっかけは、意外と日常的にありそうな、通常の範囲で理解できる行動であったりします。
ASK(アスク、アルコール薬物問題全国市民協会)というNPOのサイトに当事者の体験談が載っていますが、これらを見るとアルコール依存症になったきっかけは誰にでも起こりうるようなことであることがわかります。
アルコール依存症に「はまった理由」
- ストレス対処(仕事、人間関係などのストレスを紛らわすため)
- リラックス、気分転換(疲れを忘れられる)
- 快感(酔うと気分/心地が良い)
- つながり(人間関係の円滑剤、酒の席での安心感)
- 自信(酔うと理想/本来の自分になれる)
- 現実逃避
- 不眠、苦しさへの対処(うつ症状への対処)
アルコール関連問題
正常な飲酒をする人からアルコール依存症の人までは飲酒量・依存のレベルは連続したもので、きれいにライン引きできるものではありませんが、アルコールに関連した問題を包括してアルコール関連問題と呼びます。(たとえば、家族、知人や友人、飲酒した人の胎児や子供などにも問題が影響することがあります)
中間層の「有害な使用」「アルコール乱用」「プレアルコホリズム」は提唱する機関によりその定義がまちまちなのですが、ざっくりみると、依存症までは行かないにせよ身体的、精神的もしくは社会的な問題が発生している状態を分類しています。
日本においては、2003年の全国調査によると、アルコール依存症が男性1.9%、女性0.1%で、依存者数は81万人と推定されています。ただ、そのうち治療を受けているのは一部のようで、ほとんどの患者は専門的な治療を受けていないものと考えられています。
職場での早期発見
職場でのアルコール依存症の現れ方を知っておけば、その兆候を見つけることで早期に発見し、対応することができます。ASKが職場でのチェックリストを公表していたので引用します。
職場で早期発見するためのチェックリスト(アルコール依存症)
【酒臭】
□ 二日酔いで出勤してくる
□ 点呼時や乗務中に酒臭がする
□ (酒臭を隠すため)点呼のときにいつも後ろにいる
□ 点呼直前にタバコを吸ったり、ガムをかんだりして酒臭を隠す
□ 点呼時にアルコールが検知される【欠勤】
□ その日になって急に休み、シフトに穴を開ける
□ 休み明けにしばしば休む
□ 風邪や腹痛などで休む回数が他の人より多い
□ 家族の病気や法事など、言い訳めいた欠勤がよくある
□ 早々と有休を使いきってしまう
□ 長期欠勤をする【体調不全】
□ 水を飲みに行ったり、トイレに行く回数が多い
□ 休憩中に、具合悪そうに横になっている
□ 顔色が悪く、むくみがある
□ 下痢気味で、駐車するやいなやトイレに駆け込むことがある
□ 健康診断で、肝機能の異常や高血圧などを指摘されている
□ 出勤するが、調子が悪いと言って帰宅する【ミスや事故】
□ ちょっとした物損事故(ガードレールや電柱にこするなど)を起こす
□ 坂道でクラッチとアクセルの操作がスムースにできない
□ 人身事故を起こす【勤務態度など】
□ なんとなくイライラしている
□ 仕事への意欲にムラがある
□ 注意をすると、言い訳したり、けんか腰になったりする
□ しつこく愚痴めいた話をし、同調を求める
□ 「酒飲み」「酒に強い」「酒好き」「酒癖が悪い」などの評判が定着している
□ 給料を前借したり、同僚から金を借りたりする
□ 乗客や顧客から苦情がでる
□ 職場で孤立する
また、午前中の服装の乱れや匂い、(今まで小綺麗だったのに)身なりを気にしなくなった、などもよく見られるもののようです。
アルコール依存症への対応
否認を認めない
多くの依存者はアルコール依存症やそれによって起きる問題に否定的な態度です。「飲酒の問題などない」と全く認めないのはもちろんのこと、「まだ軽い方だ」「その気になったら止められる」などと問題を軽く見ていることも含まれます。また、「仕事のストレスが酷くて飲まないとやっていられない」と飲酒に理由をつけることもあります。しかしこれは飲酒を合理化するための方便であり、これら含めてアルコール依存症を「否認」しています。苦しいかもしれませんが、まずはアルコールによる問題を認めることが治療(断酒)の第一歩となります。
翻って職場での対応としては、アルコール依存症そのものへのアプローチというよりは、職場においての具体的な問題点を指摘し、改善を求める態度で臨みます。たとえば、「いかに同僚が迷惑を被っているか」「いかに業務上での問題が起きて(頻発して)いるか」などを具体的に本人に伝え、その対応を検討していく方向でのアプローチとなります。
また、適切な相談先や、関連情報などをいつでも提供できるようにしておくことも大切です。
イネイブリングをしない
アルコール依存症を助長する手助けをしてしまう人をイネイブラー(enabler)、そういった行為をイネイブリング(enabling)といいます。多くのケースでは、彼らはアルコール依存症の人のことを思い、「助けよう」「力になろう」などとして行なっていることがあります。飲酒によって起きた問題を肩代わりして対処してやったり、本人の欲求に応えてやるなどです。たとえば、以下の行動が挙げられます。
イネイブリングの例
こういったことは例え本人のためを思ってされた行動だとしても、アルコール依存症への対処を遠ざけることになりかねません。
職場では、主には「結果のコントロール」に当たるかと思いますが、飲酒による欠勤を有給扱いで処理してあげる、飲酒によるトラブルを上司が処理し本人にはお咎めなしにする、などです。
年齢や男女関係ないリスク
アルコール依存症は年齢や男女に関係なくみられます。患者数は男性の方が多いなどはあるものの、誰にでも起こりうる疾患です。
また、うつ病、不安障害、注意欠陥多動障害などの精神疾患がアルコール依存症の危険性を高めることもわかっています。これは、「きっかけ」の項でもみたように、疾患の苦しさや症状を和らげる目的で飲酒を勧めてしまうケースが多いことが考えられます。(しかし、かえってうつ病を悪化させたり、アルコール関連問題を引き起こしやすいのです)また、ニコチン依存やその他の依存症(ギャンブルや違法薬物等)もアルコール依存症の危険性を高めるようです。 *6
アルコール依存症は、生活習慣病のように飲酒が習慣化し日常生活の中に固定化した場合、気がつかないうちに進行していく疾患です。誰もがこの疾患についての正しい知識を持つことで、自身がかからないことはもちろん、職場や家族などに疾患に悩む人がいる場合、早期に有効なアクションを取れる可能性が高まります。