仕事のやる気を起こすには①(職務拡大、職務充実)
仕事のやる気(モチベーション)向上のための理論やテクニックなどはたくさん研究されていますが、職務拡大と職務充実について。
研究の背景
そもそも、「仕事のやる気を起こす」理論が生まれたということは、仕事のやる気のなさが問題になっていたということです。やる気を起こしてほしい対象は労働者、やる気を起こしてほしいと思うのは事業者(経営者)側です。(単純化しています)
きっかけは 1900年代初頭に遡ります。主に製造業にて、大量生産を可能とするために製造の作業を細分化・単純化し、作業担当者はそのシンプルな単一作業を延々と繰り返す、という手法が開発されました。先駆けとなったアメリカの自動車メーカー、フォードが分業によるライン製造方式を取り入れ、製造時間が大幅に短縮したことがモデルとなっていました。(車1台93分という、1914年当時最短時間でした)*1
こういったベルトコンベア式というのか、業務を高度に細分化・単純化し分業して行う手法は、テクニカルな面では生産効率アップの成功をもたらしたものの、徐々に作業員の勤務行動の問題が頻発したり作業の質が落ちる現象が見られました。遅刻や欠勤、離職、サボり、抗議やデモ・・・。生産性の高い仕事をしているのにもかかわらず。
要するにやる気がなくなってしまったのです。
どうやったら労働者のやる気を上げることができるか? 「作業効率を上げる」というポジティブな意味だけではなく、労働者に休まず、サボらず「まじめに」仕事に取り組んでもらうにはどうしたら良いか? こういった課題が多くの工場をはじめとする働く現場で持ち上がり、それに対するさまざまな研究が盛んになされました。
そして、1950年代〜1980年代、仕事への満足度やモチベーションの高さの原動力となるいくつかの要素についての研究がなされ、それをもとに作られたものの一つが、職務拡大と職務充実です。
職務拡大
職務拡大(job enlargement)は、仕事のタスク数を増やすことです。単純で単調な仕事のバリエーションを増やすことで、退屈した労働者のモチベーションやコミットメントをアップさせる狙いがあります。
職務拡大のメリット
「拡大」は現在の業務範囲から水平方向に広がるイメージで、職位(権限)を越えず現行の職位以内で行われます。追加されるタスクは今のタスクに類似していたり関連しているもののため、新たに特別なスキルは必要とされません。(もちろんタスク数が増えことは処理能力など、新たに求められるものもあるでしょう)すぐにでもスタートすることができます。
できる仕事のバリエーションが増えるため、単調さは減り、労働者本人の持つスキルや知識の増加にもつながります。転職時には選択できる仕事の幅が増えるかもしれません(そしてより良い待遇を獲得できるかもしれません)。そのため、仕事へのモチベーションやコミットメントが上がるでしょう。
トップダウンが強く指示系統が集中しているコンパクトな組織や、高度に機械化、システム化されている組織などには向いている手法です。
職務拡大のデメリット
デメリットとしては、業務量が増えるため、もともと業務負荷が高く、経営陣の指示が直接届かないような大きな組織にはあまり効果的ではありません。労働者の同意や話し合いなしに業務量を増やすと逆効果であることも。
また、短期的に見たらタスク増に慣れるまでの期間は非効率的になること、慣れても労働者のモチベーション向上効果は短期間で終わってしまう可能性があることです。
職務充実
職務充実(job enrichment)は、労働者自身の裁量や権限を増すことです。自身のコントロール感を増し、労働者のモチベーション アップの狙いがあります。
職務充実のメリット
職務充実は権限や裁量を拡大するため、業務範囲は垂直方向に広がるイメージです。
裁量や権限が増えるため、毎回の判断や指示を上司に仰いでいたのに比べて退屈さが減るのはもちろん、自己責任感、コントロール感、積極性が増します。仕事への満足度が上がり、会社へのロイヤリティも上がる効果があります。
上司にとっても、(不必要なレベルの瑣末な)指示や判断が減ることで、上司はその他の仕事に注力することができます。そのほか、労働者自身のリーダーシップを育て、自己認識の機会も提供し得ます。仕事以外でも、物事を推し進めるスキルも身につく可能性があります。
職務充実のデメリット
職務充実の実現には職位レベルを越えた仕事の再設計が必要なため、高度に機械化・システム化され固定されている(変更できない)仕事には不向きです。労働者のトレーニングやスキルアップも求められるため、時間とコストがかかります。また、処理能力や判断能力なども求められるため、そもそも労働者のスキルが低い場合にはメリットとしては働かず、むしろマイナスの効果になるようです。これは仕事でのスキルアップを望まない労働者にも当てはまります。組織的には、社内システム(人事、決裁、経理など)変更の対応も必要となるでしょう。
これらがフィットした組織において長期的に取り組んだときに効果が出るものの、短期的な効果は見込めません。(短期間では非効率的、非生産的になります)
まとめ
職務拡大と職務充実の比較まとめ。
職務拡大は仕事の再構成の一種で、職務充実も仕事の再構成でもありますが、マネジメントの改変も含みます。
今もデジタル化やDXが叫ばれていますが、結局のところ生産性のカギは従業員のやる気スイッチであるかもしれません。
技術システムと、社会システムは両者合わせるのがよいというソシオテクニカル・システムについてはこちら。(後半部)
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