睡眠時間とパフォーマンスの関係(と、勤務間インターバル)
労働者における睡眠時間を考えます。
睡眠時間と脳
睡眠時間の長さが身体のコンディションに影響することは経験的にもよくわかるかと思います。ただ、睡眠不足は「なんだかぼーっとする」といった自覚症状だけではなく、実際に、そして確実に仕事や作業のパフォーマンスに影響を及ぼします。
例えば、徹夜した人はビール瓶1本を飲んだときと同じくらい認知・精神運動作業能力が落ちていたという研究があるようです。*1 アルコールと同様、睡眠も脳に大きく影響を与えるファクターといえます。
睡眠時間とパフォーマンス
では、どれくらいの睡眠時間が良いのか、ダメなのか。
ここに、睡眠時間とパフォーマンスの関係を調べた面白い研究があります。
Vanらの睡眠時間についての研究では、4時間や6時間睡眠は、8時間睡眠に比べ、明らかにパフォーマンスが下がっていました。*2
上のグラフはタスクへの反応遅延、下のグラフは成功。タスクの反応遅延は注意力などをみて、タスク成功はワーキングメモリをみています。横軸は睡眠制限を続けた日数です。4時間、6時間、8時間睡眠を14日間続け、タスク処理のパフォーマンスをみています。(0時間睡眠は88時間、約3日まで)
面白いのは、1週間続く4時間睡眠は、徹夜1日目と同程度のパフォーマンスになってしまっていること。さらにミスについて言えば、6時間睡眠でも、それが10日ほど続くと徹夜1日したものと同程度になっています。
また、ワーキングメモリのパフォーマンステストでも、8時間睡眠をしている場合は日が経つにつれスコアが向上していますが、6時間睡眠を続けていても、大きく下がらないものの、向上もしないということです。
ワーキングメモリとは、一時的な記憶・処理能力で、ある連続したインプットやアウトプットを行うために必須の能力です。具体的には「文章を読む」「会話をする」「入力する」など、いたって日常的に行う動作や作業です。そのため、ワーキングメモリのパフォーマンスが落ちると、簡単な作業にもミスが多くなったり、かかる時間が増えたりしてしまいます。確かに、寝不足でぼ〜っとした状態で文章を読んでも、読んだ端から忘れていきます。(私の場合)ただ、この実験で示していることは、たとえ自覚症状がなくとも睡眠時間の制限を受け続けるとこういったワーキングメモリ力が落ちるということです。
仕事のパフォーマンスを考える上では、ミスや事故を減らすといった消極的な意味はもちろんのこと、仕事の効率や処理といった積極的な意味においても、睡眠時間は非常に重要なファクターとなることがわかります。
睡眠の長さだけではない
さらにさらに。
単純な睡眠時間の長さだけではなく、そのリズムも重要です。
不規則な睡眠は心身に悪影響を及ぼす(具体的には脳・心臓疾患やメンタルヘルス疾患リスク上昇など)ことがいわれ、その解決策の一つとして、「勤務間インターバル」が注目されています。
勤務間インターバル
EUでは、EU加盟国すべての労働者は、11時間以上の勤務間インターバルを設けることとされているもよう。(特例あり)
日本では、2019年働き方改革関連法「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」が改正され、就業から始業までのあいだ、一定時間以上の時間を確保することが事業主の努力義務となりました。(下記例 *3)
ただ、年末年始などの時季的なものや事案特有の繁忙期はどこにでもあるでしょう。
例えば以下に関する業務などは適用除外として運用できるとしています。
- 重大なクレーム(品質問題、納品不良等)
- 納期の逼迫、取引先の事情による納期前倒し
- 突発的な設備のトラブル
- 予算、決算、資金調達等
- 海外事案の現地時間に対応するための電話会議、テレビ会議
- 災害その他避けることのできない自由によって臨時の必要のある場合(労働基準法33条)
勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会報告書
勤務間インターバル制度は、単に残業時間を減らすというものではなく、労働時間を、労働者の生活リズムというひとつ上の枠で捉えているところが新しいように感じます。
ただ、平成30年調査時点では、導入企業1.8%と非常に少ないのが現状。
関連記事
*1:
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02924.html
*2:SLEEP, Vol. 26, No. 2, 2003 119 The Cumulative Cost of Additional Wakefulness—Van Dongen et al