安全配慮義務④
安全配慮義務について。(その 4 )
安全配慮義務は、企業がやってくれるもの?
たしかに、従業員に対して安全配慮義務を負うのはその契約の当事者である企業(事業主)です。(その2参照)
ただ、実際にその雇用契約に基づく業務をする上で、業務上の指揮命令権を持つ「管理監督者」が安全配慮義務の履行者となります。
言い換えると、事業主は管理監督者に指揮命令権を付与し、管理監督者は事業主の代わりとなって、業務の遂行はもちろん安全配慮義務も実施するという関係になります。
現場では管理監督者が行うべきもの、ということになります。
管理監督者とは
そもそも、管理監督者とは何かということについて。
管理監督者と一般従業員の違いを少しだけ。(メンタルヘルスマネジメントに関するもの一部)
ラインによるケア
メンタルヘルスマネジメントの文脈ではラインケアの担い手として管理監督者がキーとなります。部下の業務(活動)の把握はもちろんのこと、職場における部下の安全配慮は管理監督者が実施者として一定の役割を期待されています。
残業、休日出勤は手当義務なし
いわゆる「管理職の給料逆転現象」の元となるポイントです。
管理監督者は労働基準法の労働時間規制では守られません。つまり、1日8時間・週40時間が労働時間でそれを超えた場合は残業扱い=割増残業代が支給される、というフレームに入りません。休日出勤をしても割増賃金とはなりません。
8時間連続で働き1回も休憩を取らなくても、週2日(もしくは4週のうち4日)の法定休日を取得しなくても、法的には問題ありません。もちろん、36協定の対象ともなりません。
なお、休暇に関して(有給休暇や産休・育休、介護休暇、慶弔休暇など)は一般労働者と同様です。また、深夜業務は割増賃金支払いの対象です。
労働時間の把握
上記、もろもろ労働基準法における労働時間の管轄外とはいえ、事業者は、管理監督者の労働時間の適正把握は必須です。
これは健康管理の観点からで、「裁量に任せる」ことと「把握する」ことは別となります。
管理監督者は、企業によりそのタイトルはまちまちでしょうが(部長、課長、ディレクター、マネージャーとかとか)、いわゆる管理者として括られていることが多いかと思います。
管理監督者も安全配慮義務違反を問われる?
冒頭のとおり、安全配慮義務の責任主体は企業(使用者)ですが、実施者は管理監督者です。もし、安全配慮義務違反として責任を問われるケースがあった場合、安全配慮義務違反の責任は企業(使用者)でしょうか。それとも、管理監督者も問われることがあるのでしょうか。
これはもちろんケース・バイ・ケースでしょうが、可能性としてはあります。電通過労死事件(2000年判決)では、管理監督者にもその責任があるとしています。
使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。
損害賠償請求事件、平成12年3月24日、平成10(オ)217*1
企業(使用者)に代わり、業務上の指揮命令権を持つと同時に安全配慮義務を遂行する管理監督者も、損害賠償責任を問われる可能性があるということです。
自己保健義務、自己安全義務
労働者の健康は100%企業(使用者)が責任を負うべきものなのかというと、そういうこともありません。
企業(使用者)が労働者の安全配慮義務を負うのと同様に、また労働者にも「自己保険義務」「自己安全義務」という義務があります。
労働者は、事業者が第二十条から第二十五条まで及び前条第一項の規定に基づき講ずる措置に応じて、必要な事項を守らなければならない。
労働安全衛生法26条
「事業者が講ずる措置」に応じた労働者が守るべき「必要な事項」は、危険作業や健康障害、労働災害はもちろんのこと、労働者の健康や休養、清潔、風紀に関する措置など、非常に多岐にわたります。(業種・職種によりますが)なお、「労働者の健康」には、身体的なものに加え、メンタルの健康(メンタルヘルス)も含まれます。
ざっくりですが、高所作業でヘルメットなどの保護具を(事業者の求めに応じ)身につけることなど、安全に関するものが自己安全義務。一方、定期健康診断を受診することなど、健康管理に関するものが自己保健義務です。
目的は業務を(無事に)行うことですので、労働者は業務を提供できる状態を保つこと、企業(使用者)は職場環境やそのしくみを整え保つことがそれぞれの義務となるということです。
特に、健康(とりわけメンタルヘルス領域)は労働者自身の健康管理も非常に大切になってきます。労働時間内では企業(使用者)が労務提供の観点から健康管理の義務を負うわけですが、労働していない自由な時間は当然、労働者が自身の健康管理に責任を持つべきものです。
たとえば、健康や業務上気になる点がある部下がいるものの、面談を拒否される場合。
プライバシーに関わることでもあるため対応が難しいものですが、それが業務に支障が出ていることであるならば労務管理の一環となります。
管理監督者は以下2つのポイントを抑えて面談の目的を説明することが大切です。
- 労働者は、業務が提供できるような健康状態を整える義務があり、管理監督者が行う健康管理措置への協力が求められている
- 使用者は、労働者が業務を遂行できるように、健康面や業務面の問題に対して適切な就業上の措置を講ずることが求められている
・・・「そのためには最小限の情報の開示を願いたい」と説明することが適切です。*2
(おまけ)以下は自己保健義務にかかわる事業者の義務項目ざっとまとめ
事業者は、以下の危険防止&安全衛生の維持のため必要な措置を講じなければならず、
労働者はその必要時には事業者の求めに応じなくてはならない。
危険作業
- 機械等による危険
- 爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険
- 電気、熱その他のエネルギーによる危険
- 掘削、採石、荷役、伐木等の業務(墜落、土砂等の崩壊)による危険
健康障害
- 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害
- 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害
- 計器監視、精密工作等の作業による健康障害
- 排気、排液又は残さい物による健康障害
作業場の環境
- 通路、床面、階段等の保全並びに換気、採光、照明、保温、防湿
- 休養
- 避難
- 清潔
- 労働者の健康
- 風紀
- 生命の保持
労働災害の防止措置
労働災害の危険時には作業の中止・退避させる等の必要な措置
爆発、火災等発生時の労働災害発生防止のための措置(建設業等)
- 労働者の救護に関し必要な機械等の備付け及び管理
- 労働者の救護に関し必要な事項についての訓練
- ほか、爆発、火災等に備えて、労働者の救護に関し必要な事項
労働安全衛生法20〜25条を筆者まとめ
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